2007年9月29日土曜日

質的研究のあり方に関する報告1/10

以下は、私が一年半ぐらい前に某所に提出した報告書です。凡庸なレポートにすぎませんが、ひょっとして少しでもどなたかのお役にたてばと思い、ここに公開する次第です。


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質的研究のあり方に関する報告

柳瀬陽介 (広島大学)


1 はじめに

 この報告の目的は、英語教育研究においての質的研究のあり方についての関係者の理解を深めることにある。英語教育研究においては、従前のエッセイ的な論証が恣意に流れかねないとの反省から、1980年代頃より量的研究が盛んになり、2000年代では高度な統計手法を駆使した研究も珍しくなくなった。しかしその研究の量的厳密性は、現場教師の問題意識と乖離しがちであり、英語教育研究が「研究者のための研究」と一部では評される状態を招いた。私たちは量的研究の成果を踏まえつつも、英語教育研究をより実践的(かつ客観的なもの)にする努力を行なわなければならない。

 一方、1990年代の関連分野においては、英語教育研究に先んじて、深刻な方法論的反省が行なわれていた。平山(1997: I-V)も述べるように、1990年代中頃に、日本教育方法学会、日本教育工学会、教育心理学会などは方法論上の論争が激しく行なわれ、以来、質的研究は、量的研究とならんで、教育研究の一つの柱となった。

 このような現状を鑑み、私たちは英語教育研究にも質的研究の適切な導入が必要と考える。以下、質的研究方法論の大まかな特徴を述べ(2 方法論の決定とは、3 質的研究の位置づけ、4 質的研究の特徴)、続き質的研究方法の代表例に関して簡単にまとめ(5 ケース研究について、6 インタビュー研究について、7 ライフストーリー研究について、8 フォーカス・グループ研究について)、最後に質的研究における分析と記述について概括する(9 質的研究における分析、10 質的研究の記述と報告)こととする。従来の量的研究法に加えて、質的研究法が新たに英語教育関係者に普及し、英語教育研究がより実り豊かなものになることが私たちの願いである。

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