2010年5月17日月曜日

J. Matthews and R. Matthews著、畠山雄二・秋田カオリ訳 (2009) 『成功する科学論文 構成・プレゼン編』丸善株式会社

[この記事は『英語教育ニュース』に掲載したものです。『英語教育ニュース』編集部との合意のもとに、私のこのブログでもこの記事は公開します。]


科学論文は約12年ごとに数が倍増すると言われている(Stix, G (1994). The speed of write. Trends in scientific communication. Scientific American, 271, 106, 106-111)。


そのように激化する科学活動の中で、科学者が自分の知見をいかにコミュニケートするかというのは最重要課題の一つである。それは口頭でのコミュニケーション(口頭発表)から始まる。

科学技術系の研究者にとって、プレゼン(口頭発表)というのは日常生活そのものである、。さて、そのプレゼンであるが、いろいろなスタイルがある。例えば、学会発表や学科でのゼミ、それに就職試験での口頭試問や授業での口頭発表、さらには、昼食時で軽いおしゃべりや公の場における演説といったものまで、それこそいろいろある。どんなスタイルのプレゼンであれ、プレゼンをするチャンスが与えられたのであれば、とにかく、一生懸命やることだ。プレゼンは、どんなものであれ、科学の場においては、それ独自の位置づけをもっており、ピア・レビューにもとづく論文発表への橋渡しとして、どれも同じくらいの価値をもっている。(32ページ)



科学技術系のコミュニケーションを成功させようとすれば、まずは構成を整理しなければならない。そのためには次のような基本的なパターンに習熟する必要がある。

カテゴリー、時系列、空間、機能、重要性、問題解決、特殊性、複雑性、賛成と反対、因果関係、演繹法、帰納法 (69ページ)



整理された構成の内容は、さらに「ストーリー」に高められる必要がある。

[読み手が]求めているもの、それはストーリー性である。つまり、読み手の側としては、論文に対して、序盤と中盤、それと終盤といった「流れ」を求めているのである。そしてまた、そのつながりがよく見えるようにしてもらいとも思っている。(84ページ)



ストーリーは、科学者倫理に基づき、例えば動詞の時制にも注意して書かれる必要がある。

・すでに刊行されている論文に掲載されている事実は現在形で書く。
・何度か繰り返された出来事に対しては現在完了形を使う。
・まだ一般化されていない実験結果に対しては過去形を使う。
・まだ刊行されていない論文に言及するときは過去形を使う。
・投稿中の論文内にある図表に対しては、現在形を使ってもかまわない。(77-81ページ)



内容をわかりやすく伝えるには図表が有効だが、その使用についてもいろいろな助言が与えられている。図においては三つのE (Evidence, Efficiency and Emphasis)のために使えというのは(101ページ)は覚えやすい助言だろう。


プレゼンテーション・スライドを使ったプレゼンに関しては、見出しをフレーズでなくセンテンスで書く「オルタナティブ・デザイン」(Alley, M and Neeley, K. A. (2005). Rethinking the design of presentation slides: A case fro sentence headlines and vidual evidence. Technical Communication, 52, 417-426.)を著者は勧める。例えば「ハチミツに関する事実」ではなく「糖度が高いためハチミツの質が落ちることはない」と書くわけだ。センテンスを考えることは必ずしも容易ではないが、その苦労は発表者と聴衆の両方のためになるというわけだ。(さらに「オルタナティブ・デザイン」では主張が掲載されたスライドには必ず証拠も掲載することを勧めている)。


この本は補遺も充実していて、CONSORTやSTROBEについての簡単な解説がつけられている。

CONSORT, which stands for Consolidated Standards of Reporting Trials, encompasses various initiatives developed by the CONSORT Group to alleviate the problems arising from inadequate reporting of randomized controlled trials (RCTs).
http://www.consort-statement.org/


STROBE stands for an international, collaborative initiative of epidemiologists, methodologists, statisticians, researchers and journal editors involved in the conduct and dissemination of observational studies, with the common aim of STrengthening the Reporting of OBservational studies in Epidemiology.
http://www.strobe-statement.org/


「無作為化比較試験」や「疫学」については科学英語の関係者は基本的知識を身につけておくべきだろう。


訳者は最後にこう言っている。

私ども訳者も、この手の本はこれまでいくつも手に取り読んで(そして訳して)きたが、本書を読んで改めて「なるほど~」と思うことが少なくなかった。(181ページ)


私も同感だ。興味をもたれた方はぜひご自身でお読みください。




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