2010年6月26日土曜日

メディア論と社会分化論から考える言語コミュニケーションの多元性・複数性:英語教育言説の単純性への批判

以下は本日(2010/06/26)の第41回中国地区英語教育学会で口頭発表する際の資料です。ご興味のある方はダウンロードしてください。




なお、配布印刷資料は、以下にコピーもしておきます。

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41回中国地区英語教育学会(2010/06/26 於:広島大学)

自由研究発表資料

メディア論と社会分化論から考える言語コミュニケーションの多元性・複数性

英語教育言説の単純性への批判

柳瀬陽介(広島大学)

プレゼンテーションスライドはブログに掲載します。

http://yanaseyosuke.blogspot.com/

1 序論

1.1 背景:英語教育推進論と英語帝国主義論は共に現実的・理論的指針を欠く

1.2 問題:現実改革につながらず、不毛な議論や振り子現象が続く

1.3 仮説:推進論と帝国主義論は陽画と陰画ではないのか理論的解明

1.4 先行研究:推進論については江利川(2009)、帝国主義論についてはPennycook (2001, 2010)。しかし両者の共通特徴は解明されていない。

1.5 目的:推進論と帝国主義論の共通特徴を、両者の基盤であるメディアと社会に関する理論を分析枠組として解明する。

1.6 意義:言説の理論的分析により、現実的な英語教育言説生成に貢献

2 分析枠組

2.1 オングらのメディア論

2.1.1. 原初音声文化:音声言語は行動の補助に過ぎず、「文学」も繰り返しと定型句が多い

2.1.2. 原初書記文化:記憶補助などのために絵文字や表意文字が使われ始める

2.1.3. 筆記書記文化:言語が場から解放+書き残すという社会的決定古代帝国の成立に寄与、言語の対象化+「書き手」と「読み手」が想像され始める「自己意識」の誕生。自律性の高い古代ギリシャのアルファベット音声と文字の狭間に悩むプラトン+音声言語を文字メディアにより反省したレトリック文化の誕生

2.1.4. 活字書記文化:市場と共に出版活動+科学的出版+強い言語の国民国家化+学校制度国民国家言語で政治・経済・科学・文学が可能になる。「個人」「一般的他者」「個人的意識」、文字通りの意味・整合性・無矛盾性・因果性、現実の様相化の台頭。

2.1.5. 電子音声文化:広範囲での連帯意識。活字書記文化を基盤に国民国家言語を音声表現

2.1.6. デジタル表現文化:ICT:情報の汎用記録・大量保存・高速検索・連結化、知識の体系化・偏在化。「公共性=開かれていること」が一般化。読み手も書き手も多種多様な「マルチチュード」。複合的なつながり

2.2 ルーマンの社会分化論:社会というシステムはどのように区分けされてきたのか

2.2.1. 環節分化:部落の孤立的分化

2.2.2. 中心/周縁分化:古代帝国の水平的分化

2.2.3. 成層分化:貴族支配などの位階秩序、垂直的分化

2.2.4. 機能分化:政治・経済・宗教・学術・教育などの異なる機能をもつ複数のシステムによって社会が多元的分化諸システムは相互独立し、他のシステムに直接の結果を産み出すことはできない(cf構造的カップリング)

2.3 機能分化された世界社会:世界社会は複合的でコントロール不可能、脱中心的・脱領土的なグローバルネットワーク。近代の帝国主義(ナショナリズムと領土支配)とは異なる。「私たち」は単一の同一性には決して縮減できない「マルチチュード」機能分化された世界社会は、単一的に支配されないし支配もできない。「私たち」は単一の支配者なしの支配構造に支配される。「私たち」は開かれ、多種多様で、複合的につながる。「私たち」は、予測不可能な複合性を経て「私たち」の支配者でありうる。

3 考察

3.1 言語コミュニケーションの多元性・複数性: 英語は世界を中心/周縁的にも成層的にも支配していない。英語でのコミュニケーションは他言語でのコミュニケーションと多種多様に接続英語でのコミュニケーションを単一的・一方向的に捉えてはいけない多元性(ジャンル)さらには複数性を認識し整理する必要がある。諸システムにおける英語コミュニケーションの多様性を勘案に入れる必要がある。

3.2 英語教育言説の単純性への批判:Panacea or Pandemicといった二項対立的立論は不毛。ナショナリズム的日本語回帰は19世紀への舞い戻り。単一的・一方向的な権力奪取ではなく、複数的・複合作用的な権力行使で「航海しながら船を修繕する」。

4 結論

4.1 研究課題への回答:推進論と帝国主義論は、言語コミュニケーション文化の多層性・多様性と現代社会の機能分化性を十分に取り込まず、英語コミュニケーションを単一的・一方向的に捉えている。この意味で両者は陽画と陰画である。

4.2 発展意義:単一的観点は脱構築されなければなならい。メディアと社会に対する理論的基盤に基づき、単純すぎる言説を避けることが必要。

4.3 実践的示唆:ライディングでの自己意識・個人・一般的他者・現実の多元性、文字通りの意味での整合性・無矛盾性・因果性などを十分に自覚。「私たち」の多種多様性、公共性、複合性を現代デジタル表現のメディア的特性で捉える。

4.4 本論の限界と今後の課題:具体的記述・分析との連動が必要。英語教育研究は社会学的研究をこれから怠ることはできない。

主要参考文献

Hardt, M. and A. Negri (2000) Empire. Harvard University Press. (ネグリ、A.・ハート、M.著、水嶋一憲・酒井隆史・浜邦彦・吉田俊実訳(2003)『<帝国> グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性』以文社)

Hardt, M. and A. Negri (2005) Multitude: War and Democracy in the Age of Empire. (ネグリ、A.・ハート、M.著、幾島幸子訳(2005)『マルチチュード <帝国>時代の戦争と民主主義 上・下』NHK出版)

Ong, W. (2002) Orality and Literacy. Routledge.

Pennycook, A. (2001) Critical Applied Linguistics. Routledge.

Pennycook, A. (2010) Language as a Local Practice. Routledge.

Phillipson, R. (2010) Linguistic Imperialism Continued. Routledge

Strate, L. (2009) The Future of Consciousness. ETC.: A Review of General Semantics. 66, 1. 66+

江利川春雄(2009)『英語教育のポリティックス』三友社

大黒岳彦(2006)『<メディア>の哲学 ルーマン社会システム論の射程と限界』NTT出版

野口ジュディー(2009)ESPのススメ 応用言語学からみたESPの概念と必要性」、福井希一・野口ジュディー・渡辺紀子(編著)(2009)ESP的バイリンガルを目指して』大阪大学出版会

ホロウェイ、J.著、大窪一志・四茂野修訳(2009)『権力を取らずに世界を変える』同時代社

ルーマン、N.著、馬場靖雄・赤堀三郎・菅原謙・高橋徹訳 (2009) 『社会の社会 1 2』法政大学出版局






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