2011年4月23日土曜日

日本再生は「現場」の人間がやる。日本の「偉い人」をこれ以上のさばらせない。(その2:「原子力ムラ」と日本の大手マスメディア)


※この記事はその1の続きです。





■「原子力ムラ」の「偉い人」たちは狡猾で傲岸で無能


4月21日の毎日新聞は日野行介記者の「記者の目:「原子力ムラ」の閉鎖的体質」という記事を掲載しました(署名入り記事が多いのが毎日新聞の特徴です)。

日野記者はこう書きます。


東京電力福島第1原発の事故の取材応援で、東電や経済産業省原子力安全・保安院、内閣府原子力安全委員会の記者会見に何度も出席した。そこで強く疑問に感じたのは、「想定外の事態」や「未曽有の天災」という決まり文句を盾に、決して非を認めようとしない専門家たちの無反省ぶりだ。これまで不都合な警告や批判を封じ込め、「安全」を自明のものとして押し付けてきた業界の独善的体質が今回の事故の背景にあると思える。

「大変なご心配をおかけして申し訳ありません」。東電の記者会見は必ずと言っていいほど謝罪の言葉が出る。だが、「多重防護」を誇ってきたはずの原発の安全性自体に疑問が及ぶと、会見する幹部の態度は途端に硬くなる。言葉は丁寧だが、非は決して認めず、自分たちの言い分だけを強調する。都合の悪い質問には、記者をにらみつけながら木で鼻をくくったような対応をする幹部もいる。
http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20110421k0000m070156000c.html


「原子力ムラ」の「偉い人」たちは、生粋の電力会社員だけでなく、経済産業省や資源エネルギー庁からの天下り官僚、電力会社の役員クラスから「個人献金」をもらっている特定政党、電力会社出身者や電力系労働組合出身者の政治家、就職や寄付で産業界と癒着する学者などから構成されます。(“原子力ムラ”の奇怪な構図 ―ちなみにこの記事は「ガジェット通信」の「政治経済ニュース」が、政策工房発行「政策工房ニューズレター」からの転載許可を得て掲載したものです。もともとコンピュータゲームが中心のこの「ガジェット通信」ですが、大手マスメディアが扱わないような情報を提供してくれることは私も今回の原発人災で初めて知ったことでした。

大手マスメディアと言えば、諸説あれど、「原子力ムラ」が大手マスメディアに有形無形の圧力をかけていることは否定できない事実というべきでしょう。(その意味で大手マスメディアも「原子力ムラ」の一員というべきでしょう)

少なくとも原発会社は個々人の執筆者や有名人などには驚くべき高額の金額を出して、原発推進記事を書かせています。ライターの玉木正之氏は自身のブログ中の日記2010年3月12日分で、インタビュー記事一回で500万円のギャラを提示されたが、玉木氏が言いたいこと(「原発は基本的に作らない方がいい」)で折り合いがつかず、ボツになったことを述べています。また、イラストレーターのみうらじゅん氏は「ニコニコニュース2011年4月23日分」(これも周縁的メディアです!)で東電の仕事のギャラは500万円よりも「もっと上でした」と語っています。

この「プルト君」のアニメも高額のギャラで作られたのかもしれません(このアニメ作者はいまどんな気持ちで毎日を過ごしているのでしょうか)。




東京新聞4月16日は、今回の東京電力福島第1原発事故で、原子力安全委員会(班目春樹委員長)が、原発事故に対処する国の防災基本計画で定められた「緊急技術助言組織(委員計45人)」の専門家の現地派遣をしていないことを伝えています(リンクは現時点では切れています)。

毎日新聞4月19日は、原子力安全基盤機構が昨秋公表したシミュレーションによると、電源を喪失し、冷却機能を失った原子炉は、わずか1時間40分ほどで核燃料が溶け出す炉心溶融を起こすなど、短時間で危機的状況に陥ることが指摘されていたにもかかわらず、国や電力会社は対策を怠っていたことを指摘しています。

こうなると「原子力ムラ」の偉い人は、規則で決まっていることやシミュレーションでわかっていることに対してすらも自分たちの「主観的願望」から離れて対応することができないと結論したくなります。





■大手マスメディアは本当に大切なことは伝えない?

そんな「原子力ムラ」の「偉い人」たちが、今回の原発事故以降、菅総理を本部長、海江田経済産業大臣を副本部長として会議をしているのが「福島原発事故対策統合連絡本部」ですが、この懐疑の議事録は、東電勝俣会長が会見で、こういった会議の議事録の公開についてきかれ、「検討する」と返事したものの、その後枝野官房長官はその件について「議事録は作成していない」と返答し、公開は見送りとなったこと、さらには公開された会議の動画映像には、海江田大臣の冒頭挨拶しか音声が録音されておらず、他の部分は一切無音であることを「ガジェット通信」の4月19日記事「「議事録がない」「動画も音声カット」原子力事故対策本部会議を可視化するための5つの方法」は伝えています。

同記事は最後にこう書きます。


前置きが長くなりすぎてしまいましたが、「政府東電対策本部」の様子を伝える動画です。副本部長の海江田万里経済産業相が挨拶をおこなっている様子(挨拶のみ音声あり)、勝俣恒久東電会長、清水正孝東電社長、細野豪志首相補佐官などの顔ぶれが並び、資料などをプロジェクターでうつしながらなにやら打ち合わせのようなことをしています。音声がないので何を言ってるのかはさっぱりわかりませんが。一刻も早く透明化して欲しいものです。
http://getnews.jp/archives/111736


(以下がその画像です)




この文章を書いているのは4月23日の22時ですが、この時点で"福島原発事故対策統合連絡本部"でグーグル検索(News)をかけて出てくるニュースのうちこの映像に関することを扱ったのは、(私が調べる限り)毎日新聞の4月18日の記事だけです。日本の新聞はすぐにホームページから記事を削除するため、ここではその短い記事を全文掲載します。読み方によってはちょっと恐ろしく思えるからです。


福島第1原発:対策本部の映像公開 東電


 東京電力は18日、今月15日に東京・内幸町の本店で開いた政府との「福島原発事故対策統合連絡本部」会合の画像と映像を公開した。

 大型画面を設置した室内で、副本部長の海江田万里経済産業相が「心を一つにしてこの難局に立ち向かっていこう、ということでよろしくお願いします」とあいさつ。細野豪志首相補佐官や東電の勝俣恒久会長、清水正孝社長らも並んで担当者の報告を聞き、メモを取ったりする姿が撮影されている。

 同本部は、炉心冷却作業が難航している福島第1原発事故への対策を一体化するため設置された。

毎日新聞 2011年4月18日 18時16分(最終更新 4月18日 18時33分)






上の記事をよく読んでください。海江田大臣があいさつしたとは書かれています。その次に出席者がメモを取ったりする姿が撮影されているとも書かれています。(どうぞ上の引用をもう一度直接読みなおしてください)。

何気なく読めば読み過ごしてしまうような記事ですが、上のガジェット通信の指摘「音声はあいさつだけで、後は無音」を受けて、上の毎日新聞の記事を読むと、不気味なぐらいにこの記事は「音声はあいさつだけで、後は無音」という状況と矛盾しない書き方で書かれています。これは毎日新聞が「この映像にはあいさつ以降の音声がありません」というメッセージを、一部の読者にだけわかる形で伝えようとしているものでしょうか・・・

私が知る限り、この会議映像について伝えた新聞は毎日新聞だけです(会議そのものについての記事はたくさんありますが、映像については毎日新聞だけです)。毎日新聞は、東京新聞と共に、今回の原発人災について良く報道していると私は思っていますが、その毎日新聞でさえ、ひょっとしたら、昔のソ連のメディアみたいに、まわりまわったような間接的な言い方でしか、本当に大切なことは知らせられないのでしょうか。

記者クラブ」は、ウォルフレン氏が『日本 権力構造の謎』などで問題を指摘していましたし、今では上杉隆氏が『記者クラブ崩壊 新聞・テレビとの200日戦争』などで訴えている通りですが、これが記者クラブの実態でしょうか。つまり記者クラブの大手マスメディアは基本的にこの福島原発事故対策統合連絡本部が公開した映像にはあいさつ以外の音声が入っていないことについては伝えないことにしており、毎日新聞だけがそれを何とか伝えようと、上の判じ物のような、あるいはソ連時代のメディアのような形で伝えていると考えるべきなのでしょうか(そしてその他には「ガジェット通信」ぐらいしかこれを伝えていないのでしょうか―「ガジェット通信」のこの記事は深水英一郎(ふかみん) という人によって書かれたものです)。

断っておきますが、私は陰謀説は好きではありません。しかし、現在日本で最も重要だと考えられる会議の無音声画像について、


(a)ガジェット通信といったメディアしか伝えていない。
(b)大手メディアは伝えていない
(c)大手メディアで例外的に伝えた毎日新聞は、深読みすればかろうじてわかる形でしか、このことを伝えていない


ことからすれば、この無音声画像については実質上の報道管制(記者クラブ合意)ができているのかなと考えてしまいます。

そういえば、前の記事冒頭の菅首相の毎日新聞記事も、よく読めば、菅首相が強行したヘリ放水は冷却効果のないものであり、米国のためのパフォーマンスにすぎなかったことがわかりますが、雑に速読すれば英雄談のようにも読めます。現在はこの記事は公開されていますから、以下に全文掲載します。速読と精読でどのように読めるか、どうぞ皆さん試してみてください。


検証・大震災:不信洗った、ヘリ放水 原発から白煙…政権「世界に見放される」

 ◇自衛隊が前面、米に覚悟示す
 
 晴れ渡る空に陸上自衛隊の大型輸送ヘリCH47が2機、巨大なバケツ(容量7・5トン)をつり下げて仙台市の陸自霞目(かすみのめ)駐屯地を飛び立ったのは、東日本大震災6日後の3月17日朝だった。東京電力福島第1原発3号機からは白煙が上がる。使用済み核燃料プールの水が沸騰した放射性水蒸気だ。海水をくんで放水し、プールを冷やす前代未聞の作戦だった。

 「炉心溶融が進行していれば、放水によって水蒸気爆発を起こすおそれもある」。菅直人首相らは「最悪のシナリオ」を危惧し、防衛省は搭乗隊員向けにできる限りの防護策をとった。放射線を極力遮断するため戦闘用防護衣の下に鉛製ベストを着込み、床部にはタングステン板を敷き詰めた。原発上空に停止せず、横切りながら放水する方式とした。

 「ヘリ放水開始」。午前9時48分、テレビ画像のテロップとともに映像は世界に生中継された。計4回(計約30トン)の放水で1回目が目標に命中したが、爆発は起きなかった。日本政府が命がけの作戦を開始した--。ニュースが伝わった東京株式市場では全面安の展開だった日経平均株価の下げ幅が緩んだ。

 「自衛隊などが原子炉冷却に全力を挙げている」。作業終了から約10分後、菅首相はオバマ米大統領に電話で伝えた。その後、米国防総省は藤崎一郎駐米大使にこう伝えた。「自衛隊の英雄的な行為に感謝する」

 翌18日、米原子力規制委員会(NRC)代表団や在日米軍幹部と、防衛、外務当局や東電など日本側関係者が防衛省でひそかに会合を持った。米側の一人はヘリ放水を称賛した。「よくやりましたね」

 相次ぐ水素爆発と放射性物質の広域拡散……。原発暴走を制御できない無力な日本という印象が世界に広がりつつあり、菅政権は「日本は見捨てられる」と危機感を強めていた。「放水はアメリカ向けだった。日本の本気度を伝えようとした」。政府高官は明かした。

    ◆

 「原発の状況が分からない」。米国のいら立ちは震災直後からあった。NRC先遣隊が12日の1号機水素爆発直後に日本に派遣されたが、複数の政府関係者によると、経済産業省原子力安全・保安院は「情報開示に慎重だった」といい、米政府は原子炉の現状を推測するしかなかった。

 14日には「トモダチ作戦」に参加していた米原子力空母ロナルド・レーガンが乗員から放射性物質が検出されたとして三陸沖を離れ、16日にはNRCのヤツコ委員長が下院公聴会で「4号機の使用済み核燃料プールには水がない」と証言。17日未明にルース駐日米大使が日本の避難指示より広範な原発から半径50マイル(約80キロ)以内の米国人に圏外避難を勧告した。一連の言動は日本への不信と強い危機感の表れと映った。

 日米がかみ合わない中、打開に動いたのは防衛省だった。15日に東電側と相談して「3号機は上空、4号機は地上から」という放水作戦を立案。水蒸気爆発を懸念した菅首相は防衛省に「地上の前にまず上空から」と指示した。隊員から戸惑いの声も漏れたが、「やるしかない」と陸自幹部は覚悟を決めた。

 16日の夜には北沢俊美防衛相と制服組トップの折木良一統合幕僚長が「放射線量の数値が高くても踏み切る」と「17日決行」を決める。「隊員の命にかかわる作戦だ」。17日朝、折木統幕長が東電から「安全」を確認すると北沢防衛相に最終的なゴーサインを告げた。

 「今日が限度と判断をした」。北沢防衛相はヘリ放水後の会見で言った。米政府は好感し、現実には冷却効果が期待できないヘリ放水は二度と行われなかった。【震災検証取材班】
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20110422ddm001040072000c.html


どうでしょう。丁寧に読まなければ、菅首相のヘリ放水批判はわからないようにしか書かれていないとは言えませんでしょうか(正直、皆さんのご意見がほしいところです)。


私が昨日の記事の追記3で書いたことは、これまで原発推進であった科学者や医師の有志16名が3月31日の時点で書いた「福島原発事故についての緊急建言」は、彼・彼女らが冒頭で「はじめに、原子力の平和利用を先頭だって進めて来た者として、今回の事故を極めて遺憾に思うと同時に国民に深く陳謝いたします」と謝罪し、最後に「私達は、国を挙げた福島原発事故に対処する強力な体制を緊急に構築することを強く政府に求めるものである」とするものですが、『週刊現代2011年4月18日号』はこれについて


だが、覚悟の「建言書」はメディアにも政府にも無視された格好だ。4月1日に開いた会見には、多くの記者が集まったが、取り上げたのはごく一部のメディアだけ。政府にいたっては、「建言書」の受け取りすらも拒否したという。(44ページ)


と書いています(申し添えておきますと、『週刊現代』の講談社は記者クラブには入っていません)。



私は今、たくさんの仕事を抱え、多くの予習もせねばならず、またしっかりと研究もしたい(研究のテーマは定まっています)のですが、今回の原発人災以来、ちょっと気をつけてネットで情報を得るだけで、テレビや新聞だけではわからないようなことがどんどんわかってきます。そしてそれらの多くが日本の「偉い人」達がつくった恐ろしいほど情けない日本の体制なので、なかなか仕事・勉強に集中できません。

私の上の、「福島原発事故対策統合連絡本部の公開画像には、あいさつ以外の音声が入っていないことについて、大手メディアでは毎日新聞だけが、深読みしない形でしか伝えていない」ことから、記者クラブ的な報道の談合が行われているのではないかと推論したこと」の妥当性について、どなたからでもご意見が伺えれば幸いです。



追記

たった今、Twitterで知ったニュースは朝日新聞が伝える「『排気の遅れ、水素爆発招いた』 米紙が原発事故分析」という記事です。

しかしこの記事は


23日付の米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)は、福島第一原子力発電所の事故について、放射性物質の外部放出を懸念し、東京電力が格納容器内のガスの排出をためらったことで水素爆発を招いたとする分析記事を掲載した。
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201104230312.html


という冒頭文から最後に至るまで、「ウォール・ストリート・ジャーナルがこう言っています」という形、つまり「これは朝日新聞が言っていることではありません」とう形になっています。

昔から、日本の大手新聞は、本当に書きたいことがある時は外電を引用する形で伝える(小さな事柄なら読者の投稿の形で言わせる)と言われてきました。

別に秘密警察があるわけでもないこの日本で、もし大手マスメディアが、外電や読者投稿の形、あるいはソ連のメディアのような判じ物の形でしか、事実を国民に知らせることができないとしたなら、大手マスメディアで働く人間など、クズでカスです。日本で言うところの「偉い人」であり、狡猾で傲岸で無能です。

どうぞ私のこの主張が間違いであることを誰か示してください。そうすれば私は謝罪し、この主張を撤回し、そして私が間違っていたことを喜びます。さもなければ私はこの主張を自分の中の仮説として持ち続けます。


追記 (2011/05/05)

その後、復興構想会議の「匿名議事録」(「議事要旨」)が公開されたことを私は「ガジェット通信」を通じて知ったことをお伝えしておきます(http://getnews.jp/archives/113890)。

その「匿名議事録」(「議事要旨」)は、http://www.cas.go.jp/jp/fukkou/pdf/kousou1/youshi.pdfからダウンロードできます。






この記事はその3に続きます。






必要物資・支援要求マップ 311HELP.com






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