2011年8月9日火曜日

NHKプレキソ英語7月号テキスト掲載記事


NHKのEテレ(教育テレビ)で放映中のプレキソ英語のテキスト(7月号)に拙稿を掲載させて頂きました。編集部のご厚意で、発刊から一ヶ月以上たった8月にはその原稿をこのブログに掲載してもよいという許しを得ましたので、ここに掲載させて頂きます。

この原稿は、大津由紀雄先生編集の『危機に立つ日本の英語教育』(2009年、慶應義塾大学出版会)に掲載させていただいた「学校英語教育の見通し ― 言語コミュニケーション力論・複言語主義・コミュニケーション論」の内容を思いっきり単純化してわかりやすく書いたものです。この見通しにより、NHKプレキソ英語の試みの位置づけができればと思いながら書きました。




プレキソ英語って、中学校の勉強につながるの?


■これって勉強?

 プレキソ英語をお楽しみの皆さんは、私と同じようにプレキソの自然な英語、アート感覚たっぷりのアニメーション、アニメと絶妙のコラボをなしている音楽をお楽しみのことと思います。でも皆さんの中には「楽しいのはいいんだけど、これで中学校からの英語の勉強につながるのかなぁ」とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。今日はこのことについて考えてみましょう。


■そもそも「英語の勉強」って何?

 世間では「英語は早く学ぶべき?」「コミュニケーションに文法はいらない?」「英語コミュニケーション能力を測るのにはどの試験が一番?」などの議論が終わりなく続いていますが、それもそのはず、これらの論者の多くは、「英語」「コミュニケーション」「能力」といった用語の定義をあいまいにしたまま、議論を続けています。「プレキソは中学校からの英語にどう役立つの?」という問いも、英語を使ったコミュニケーションの能力のどの側面に注目して語っているかに注意する必要があります。


■英語コミュニケーション能力の三つの側面

 それではプレキソが育成しているのは、「英語コミュニケーション能力」のどの側面でしょう。私は、英語を使ってコミュニケーションを行う力を、「身体」「相手の心を読む」「言語」の三つの側面の力の統合として考えています(詳しくは大津由紀雄編『危機に立つ日本の英語教育』慶応義塾大学出版会の中の拙稿をお読みください)。ポイントは、「言語」の力の基盤として、「身体」を使いこなす力と「相手の心を読む」力があるということです。英語コミュニケーション能力は「言語」「身体」「相手の心を読む」の三つの側面の力がうまく統合されてこそ発揮されるわけです。
 
 
■(1)身体を使いこなす力

「身体を使いこなす力」は(1a)「非言語的に身体を使いこなす力」と(1b)「言語的に身体を使いこなす力」に分かれます。(1a)は、身振り・手振り、表情・目配せ、周りの物をうまく説明に使うことなどです。(1b)は英語なら英語用に口舌を使って他人にわかってもらうように発音することなどです。

(1a)はプレキソ登場人物の自然な(そして時に劇的な)仕草から学べます。(1b)はプレキソで感覚的につかめます。いわば、正式に楽譜を使ってクラシック音楽を学ぶ前に、たくさんクラシック音楽を聞いておくようなものです。いきなり楽譜で勉強をする前に、音楽の喜びを知っておくことが大切なように、プレキソの感覚的な学びは大切です。


■(2)「相手の心を読む」力

(2a)言語使用以前に相手の心を読む力と(2b)言語を通じて相手の心を読む力の2つに分けられます。(2a)は、すべて英語で進められるプレキソを視聴しながら、まだ英語がよくわからない視聴者が自然と登場人物が何を言おうとしているのかを考えるようになることにより育てられます。実はこの力は、英語を話す・書く時にも重要になります。話す時でも、自分が話したいように話すのではなく、相手が聞きたがっているように話すことが大切なのですから、相手の心を読む力を育てることは話す・書くことの基盤となります。さらにそれは「言葉の裏を読む」といった高度な(2b)の基盤ともなります。

■(3)「英語」を使いこなす力

(3a)丸ごと体得した言語表現を使いこなす力と、(3b)文法で毎回新しく単語を組み合わせて言語表現を創り出す力に分けられます。プレキソは(3a)、中学校からの勉強は(3b)です。しかし、(3a)の表現が数多く理屈抜きに体得されていると、(3b)の理屈の学習が簡単になります。方程式の勉強の時に、九九を暗記しておくと非常に役立つことに似ています。

(1)~(3)の力が統合してこそ英語を使ってのコミュニケーション能力は高まります。その全体像の中にどうぞプレキソを位置づけてみてください。



NHKプレキソ英語は、小学生を対象として作られた英語番組ですが、番組の質が高いので大人も楽しめます。動画が無料公開されていますので、まだご覧になっていなかったらこれを機会にぜひどうぞ。




追記

NHKは「基礎英語」のテレビ版を制作することを計画しており、その試みとして以下の番組を放映するそうです。

NHKを支えているのは私たちです。ご意見があればぜひNHKにお寄せ下さい。


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「テレビで基礎英語」
ラジオ「基礎英語」のテレビ版が2回シリーズで登場!
テーマは「中学英語で世界デビュー」。中学校レベルの簡単な英語で自己紹介の
極意をマスターしていく。

▼中学1年の最初に学ぶ"I am" は黄金の表現だった!
▼「ミス・アメリカ」の映像から、アイデア満載の自己紹介を学ぼう!
▼アメリカからのオモシロ自己紹介映像
▼自己紹介の幅を広げるlike, have, canを使いこなせ!
▼出演;マギー、柳原可奈子、まえだまえだ、大野拓朗、ほか

8月21日(日) 第1回「こんなに簡単!自己紹介」
8月28日(日) 第2回「みんなが感動!自己紹介」
いずれもEテレ、夕方6時30分~6時50分放送
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