2012年5月7日月曜日

日本で生活する様々な職業人が自らの仕事と英語の関わりについて語る肉声を聞けるサイト(e-job-100)

私の「畏友」である鈴木章能さん ―この表現を使うといつも鈴木さんは笑うのですが― が素晴らしいサイトを公開しています。





日本で生活する様々な職業人が自らの仕事と英語の関わりについて語る肉声を聞けるサイトです。現在、100職種ぐらいの職業人の声が掲載されています。うち、41職種で、実際にその日本人が英語を使っている動画や、英語がなぜ、いつ、どのように必要なのかをインタビューした動画が見られます。その他のサイトでは、テキストでインタビュー概要が掲載されています。

例えば試しに看護士さんの実際の英語使用場面と、日本語インタビューの動画を御覧ください。




時に「日本で英語を必要とするのは、海外支店をもつ大企業に勤める人間だけだ」といった声が聞こえますが、鈴木さんは本当にそうだろうかと思い、実際に様々な職業人にインタビューをして、このサイトを開設するに至りました。

なんといっても生の声を聞けることが素晴らしいです。どのような語り口で、それぞれの職業人が英語使用について語っているか ― 大学生はもちろんのこと、中高生もこのサイトを見ることで、英語学習や将来のキャリア設計について深く感じて考えることができるのではないでしょうか。

鈴木さんは、サイトの説明で次のように書いています。
私は英語が必要であるとあまり連想されない職種を中心に調査をしました。結果は下に書いてあるとおりで、ほとんどの職種の人々が英語の必要性を訴えています。
しかし、こうした現実を言葉で伝えても学習者にはなかなか伝わらないという経験を しました。   
そこで、学習者に英語の重要性を説くには、仕事の現場へ行き、一日の仕事の内容とともに、いつどこでどのような英語をなぜ使わざるを得ないのか、生の現場映像を写し、それを学習者に直接見せ、あるいは、インタビューをそのまま見てもらい、学習者自身が自分で考えるのがよいと思いました。

当初はビデオ映像を使い、授業で見せていましたが、学習者から、web上で主体的に選べる形式のものを展開して欲しいと要望があり、このサイトを開設しました。学習者が、将来就きたい職種を選び、そこで英語が必要なのかどうか、必要であればどのような英語が、どのような理由で必要になるのか、英語の必要性について個人個人が自分で「納得」することで、自分にとっての英語学習の重要性を考えてほしいと思い、本ホームページを作っています。 
http://e-job-100.sakura.ne.jp/modx/ 


しかし、鈴木さんはよくいるような「英語至上主義者」でもありませんし、英語使用に関して不安を煽ってそれで儲けようなどと考えている人でもありません。鈴木さんは文学研究を第一の専門としている人ですが、文学研究者らしく深く感じて深く考えて行動する人です。このサイトもそういった鈴木さんの姿勢が忠実に反映されています。

以下は、鈴木さんから私への私信の一部です。鈴木さんの許可を得てここに転載します。

ところで、これは、当初、単に英語学習の外的モチベーション作りのために作りました。しかし、取材を重ねていくうちに、英語だけではダメなのだということが、だんだんわかっていきました。 
たとえば、看護士さんのページにある「インタビュー」の方の動画をご覧ください。技術面は基本として大事ですが、それ以上に、病を持った人の不安を取り除くために、相手に相手の言葉で語らせてあげる必要があり、そのとき、海外からの移住者は英語の方が不安を語り易い人が多く、その意味で英語がいま必要になっているとのことです。全人という言葉も言っておられます。医師や歯科医も同じことを言っています。 

あるいは、Web制作の方のインタビュー、ならびに、私がまとめたテキスト部分をご覧ください。グローバリズムのいま、HP制作の注文では日本語版のみならず英語版も同時に注文されることが多いそうです。でも、日本語を英語にいくら上手く訳せても、無駄なのだそうです。というのも、英語版を見る人は海外の人であり、日本人が素敵だと思うHPと、海外の人が素敵だと思うHPでは、文化や感性の違いから、異なるため、英語版HPでは、英米の文化や感性をよく知っておき、HPを英米のローカリゼーションで作らねばならない、と言っています。それには、英語だけ学ぶのではなく、文学や文化学が必要になってきます。 

建築デザイナーも、哲学や思想、文学が重要とインタビューで言っています。
アパレルの方だったか、ラッピング資材の方だったか忘れましたが、いま英語ともう一カ国語アジアの言葉が必要になっていると言われるものの、たとえば中国の人々とビジネスをするには、英語で行うのがよいと言っています。その理由は、中国語だと、相手の土俵に乗ってしまうため、とのことです。一方で、英語だけですと、英中通訳者がつきますが、目の前で中国語だけでやりとりされる中に、本当にこちらが手に入れたい相手からの情報が隠されているだけに、中国語が出来る方がよいとのことです。手に入れたい情報とは、「その会社の人々が本当はどのような人格でどのような教養なのか」がわかり、そこでビジネスの今後を真剣に考えられるのだそうです。このことが物語っているのは、英語も重要だが、それとともに、教養があり、人格が発達していなければ、ビジネスはその時点で終わり、ということです。 

他にも色々とありますが、英語だけではダメであることは、実際に社会に生きる職業人が言っていることです。従いまして、いま、英語が社会で使用できることを念頭に英語教育が展開されるというのであれば、そうであればこそ、英語に加えて、深い教養や人格向上が伴わない英語教育は、なにも社会に資さない、ということが言えると思います。

大学生から中高生いや小学生まで、英語教師から一般市民まで、多くの人がこのサイトを閲覧することで、英語教育実践が一層地に足がついたものになればと私は願っています。

これだけ多くのインタビューをした鈴木さんと、インタビューの公開に同意してくださった方々には深く感謝する次第です。



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