2012年9月22日土曜日

山田智久 (2012) 『ICTの活用』 くろしお出版




ICT (Information Communication Technology)を使いこなせれば便利になるのはわかっている。というより今は使いこなせていないからかなり苦労しているし周りにも不便をかけてしまっている ―こう思いながらも、なかなかICTを活用できていない言語教師は多いかと思います。

著者によるならその理由は次のようなもの。

・ICTについて体系的に学ぶ機会がほとんどない。

・ICTに関する本を読んでも、自身の教育現場と結びつかない。

・何から始めてよいかわからない。

・ICTに詳しい人に聞いても、説明が難解でわからない。

・ICTそのものが次々に進歩している。


このような状況を受け、これまでICTに多額の投資をしてきた日本語教師である山田智久先生が、外国人に日本語を教えるように丁寧に、初歩から応用まで、ICTそのものから活用のポイントや教室での展開まで、体系的にわかりやすく解説してくれたのが本書です。くろしお出版の編集者の「世の中の役に立つものを作りましょう」という声に支えられて出版されたものです。

シリーズ「日本語教師のためのTIPS 77」の一冊ですが、英語教師や国語教師にも役立つ本です。実際、上記の理由から、学部生にコンピュータ入門の授業で苦労している私としては、今年度の「英語教師のためのコンピュータ入門」の授業では、この本を副読本として推薦する予定です。

本書の目次はくろしお出版のホームページで見ることができます。


日本語教師のためのTIPS 77 第2巻 ICTの活用
http://www.9640.jp/xoops/modules/bmc/detail.php?book_id=41898&prev=released


この目次を見てもわかりますが、本書は以下のように、言語教育の現場と言語教師の実態を知った著者ならではの項目や助言が満載です(また「デジタルがアナログに勝る時にのみ使用する」ことをモットーとする著者は、無駄に高機能・多機能を賞賛することはありません)。

・そもそもどんなパソコンを買えばいいのか。

DVDの+Rや-Rなどはどんな意味なのか
・PowerPointスライドは、タイトルで32ポイント、本文で28ポイントぐらいが無難。

・かんたんな地図などの作図なら、Excelが意外と便利。

スクリーンショットの多用で教材作成時間が短縮できる(ちなみに私(柳瀬)は、スクリーンショットはEvernoteと連動させて使っています。これは便利です)。

・音声編集はFree Audio Dubなどの無料ソフトでかんたんにできる。

・ビデオカメラではなくデジカメで学習者の発表(ただし10分以内)を録画すると、非常に機動性が高くなり録画をどんどんするようになる。SDカードなどを通じて、授業中にすぐに再生できるし学習者にも渡せるから便利。

・デジカメ用の簡易三脚は、ゴリラポッドが便利。 ・発音チェックはスマホのGoogle TranslateやDragon Dictationなどの無料アプリでできる。

・フォルダ名やファイル名に空白を入れずに"_"や"-"を使った方がいい理由。

・「ディスクのクリーンアップ」と「ディスクデフラグ」はパソコンの掃除。


著者もいうように(269ページ)、ICTに関しては、最終的には個々人が「自律」して「自分で調べる癖」をつける必要があります。しかし「デジタルの勘」が身につくまでは、体系的な入門書を常備の参考書にして、導いてもらう方がいいでしょう。

実際、この本に書かれていることのほとんどは、ネット検索でも知ることができるでしょうが、そのネット検索にかける莫大な時間(初心者はそもそも何を検索すればいいのかわかりません)を考えるなら、このような本を手元においておく方が賢明でしょう(このような出費を惜しむのは賢明ではないと私は考えます)。

ただ申し添えておくべきは、この本はWindowsマシンでMicrosoft Officeを使うことを前提とした本です。Macへの言及はありません。また私は個人的にはMicrosoft Officeの普及に対して意見をもっていますが、それはまた別の記事で書きます。

ともあれ、現時点で言語教師(の卵)に対してICT入門の本を薦めるとしたら私はこの本を薦めます。








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