2016年4月4日月曜日

地道に根をのばしてゆきましょう(学部生講座オリエンテーション挨拶)


  私は趣味で毎日のように通勤路で出会う植物の写真を撮っていますが、この春の木々と草花の芽吹きには本当に驚かされました。年度末に私は出張で一日だけこの西条を留守にしたのですが、帰ってみるとそれまで枯れ木同然だった木々に緑の葉が芽吹き、小さな草には色鮮やかな花が咲いているのには感動すらしました。



  これらの芽吹きをもたらした一つの契機はまちがいなく春の暖かな陽光ですが、私たちは木々や草花がこの冬の厳しい季節に着実に根をはっていたことを忘れてはいけません。

  冬の間、木々や草花は地面の上ではほとんど何も変化を示していませんでしたが、実はその間に、土壌の中に根をはり、自らの中に力を蓄え続けていたわけです。地下で根をはることは容易ではなかったかもしれません。地上の気候は過酷で木々や草花はひたすら耐えているしかなかったようにも見えました(私は毎日植物を観察していましたから、それらの日々をよく覚えています)。しかし冬の間の地道な営みで潜在力をつけたからこそ、この春に木々や草花は一気に芽吹き開花することができたわけです。

  皆さんは大学入学ということで周りからおめでとうと言われ続けているでしょう。私もおめでとうと言わせていただきます。

  しかし社会的に言うなら、皆さんは保護者のお金、あるいは奨学金という名の教育ローンと、多額の税金投入によって、学生の身分を一時的に得ているに過ぎません。厳しすぎる言い方になりますが、社会的には皆さんはゼロに等しい存在です。

  皆さんの中には、これまでも様々な困難の中で根をはってきた人もいると思います。しかし最近目立つのは、親や学校に手取り足取り世話をされた人 ― 喩えてみるなら、ぬくぬくとした温室の中で、栄養剤入りの水の中で水耕栽培されて花を咲かせたような人です。受験勉強でいい点は取ってきたかもしれませんが、知性の面でも人間性の面でも鍛えられないままに、徒花を咲かせてきた人です。

  私は教師の一人として、皆さんが幸せな生涯を送ることを切に願っています。ですから、学業については厳しい指導もします。困難な課題も出します。甘やかされ続けたまま社会に出た若者が多く挫折していることを知っているからです。

  大学時代に、しっかりと知性と人間性の根を地道に延ばしてください。水耕栽培で根をのばすのとは異なり、自力で大地の中に根をはることは容易ではありません。しかしその営みをしっかりとしてこそ、皆さんは社会で開花できます。

  どうぞしっかり学びましょう。私も教師として学びます。これからの四年間、徒花を求めることなく地道に根をのばしてゆきましょう。

  以上を私からの挨拶とさせていただきます。改めてご入学おめでとうございます。


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