2017年8月9日水曜日

意識の統合情報理論からの基礎的意味理論--英語教育における意味の矮小化に抗して--全国英語教育学会での投映スライドと印刷配布資料



全国英語教育学会第43回島根研究大会において8/19(土)の朝9時半から個人発表(「意識の統合情報理論からの基礎的意味理論--英語教育における意味の矮小化に抗して--」)をさせていただくことになりました。会場は第10室(教養1号館)です。

下に、当日に投映する予定のスライドと配布する予定の印刷資料をダウンロードできるようにしましたので、ご興味のある方はご参照ください。


なお同日の13時半からは、私は樫葉みつ子(広島大学)・中川篤(広島大学大学院生)に続く第三著者として、「卒業直前の英語科教員志望学生の当事者研究―コミュニケーションの学び直しの観点から―」の共同発表も行いますこともお知らせしておきます。こちらの場所は第13室(教養2号館)です。


 
投映予定スライドのダウンロード

配布予定資料のダウンロード



以下、簡単な参照用に配布予定資料の内容とスライドに掲載した引用文献の情報をコピーしておきます。



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意識の統合情報理論からの基礎的意味理論
英語教育における意味の矮小化に抗して


広島大学教育学研究科
柳瀬陽介 (YANASE Yosuke)







1 序論

1.1 現状

1.1.1 英語表現の意味の知覚対象化
客観テストでは、可能だが確定的ではない推意・暗意 (implicature) は構造的に排除されている。

1.1.2 英語教育の意味の貨幣化
英語教育の成果(意味)が、客観テストの得点で測られ、得点が貨幣のように扱われている。

1.2 客観主義者的意味論
意味は、客観的に記述できる確定的な静態的対象である。
「客観主義者的意味論・客観テスト・新自由主義・一元的客観主義」の連環が近代社会に組み込まれている。

1.3 経験基盤主義からの意味理論
意味とはモノではない。意味は私たちにとって有意味だということに関わっている。それ自身で有意味なものは何もない。有意味性は、ある種類の存在者がある種類の環境の中で機能するという経験の中から生じる。

1.4 ルーマンの意味理論

1.4.1 現実性 (actuality) と可能性 (potentiality)
意味とは、無数の可能性の中に浮かび上がった現実性である。

1.4.2 複合性 (complexity)
人間が進化の過程で獲得した意味という意識の素材 (medium) は、現実性とつながる無数の可能性という形式で複合性を表象する。

1.4.3 自己生成システム (autopoietic system)
自己システムとしての意識の作動 (operation) においては、その素材・要素としての意味が生じるが、意味は出来事 (event) であるので流動的であり、絶えず新しい意味に取って代わられる。

1.5 研究課題
ルーマンの意味理論を自然科学の意識の理論と矛盾なく統合することによって、意味の主観性と客観性を統合的に扱える意味理論を導出する。(その意味理論により、英語教育界における意味の矮小化の是正を目指す)。



2 方法

2.1 統合情報理論  (Integrated Information Theory: IIT)
意識の現象学的基盤から出発し、神経科学的な知見をうまく説明できる数学的モデル(情報理論)を構想

2.2 本論考における限定
意識における意味だけを扱い、コミュニケーションにおける意味は扱わない。神経科学的説明と数学的説明も割愛。



3 意識の統合情報理論からの意味理論

3.1 意識の内在性
意識の主観性の措定:意識の存在は外部観察者 (external observer) とは無関係の内在的視点 (intrinsic perspective) で現象学的に自明とされる。

3.2 意識の機構性
意識の客観性の措定:存在するものは、何かに対する因果力を有し、因果力を生むための物理的機構を有しているはずである。意識の因果力は、意識自身に対する自己因果力と考えられる。
単純な回路の③と④の状態の確率分布から自己因果力について考える。

回路がないなら(矢印がないなら)、③と④の状態は (0, 0), (0, 1), (1, 0), (1, 1)が (1/4, 1/4, 1/4, 1.4) の確率分布を示す。だが、もし回路があり、①と②の状態が (1, 0) か (1, 1) なら、次の瞬間の③と④の状態の確率分布は (0, 0, 0, 1) になる。時間軸を逆にして、③と④の状態が (1, 1) なら、前の瞬間の①と②の状態の確率分布は (0, 0, 1/2, 1/2) となる。このように単純な回路でも自己生成のあり方の可能性(選択肢)を減らすという点で情報量を有する。

意識は自己生成システム:脳が複合的な回路であり、意識はその回路から生じるとするなら、意識は脳が自らの状態に関して生み出す情報(選択肢の縮減)であると考えることができる。意識は動態的な過程 (dynamic process) である。

3.3 意識と複合性
現実性と可能性、確定性と不確定性の統一:ある瞬間 (t) のニューロンの発火状態は現実的 (actual) であり確定的 (determinate) であるが、次の瞬間 (t+1) に発火するニューロンの状態は、tの時点では可能性 (potentiality) として存在する。意識の複合性の高さのため、ある瞬間 (t+n) のニューロンの発火状態(すなわち意識の状態)を正確に予測することは極めて困難である。

3.4 意識と意味

情報⊃統合情報=意識⊇意味

意識としての統合情報は、構成部分としての数多の情報をもつが、その総和以上の統合された情報であり、それ独自の違いを意識自体にもたらし、意識を変容させる。
意味とは、意識自体に格段の変化をもたらす意識であると定義することが、日常言語での「意味」の用法に近いだろう。
また、日常語での「意味がわからない」とは、現在の意識の状態が未来のどのような状態につながるか、また、過去のどのような状態に由来しているのかについて、まったく「見通し」がもてない状態であると解釈できる。



4 英語教育における意味の拡充

4.1 新しい意味概念
(1) 意味は、客観的実在物上での主観的経験である。
(2) 意味の経験では現実性の確定性と可能性の不確定性が共存する。
(3) 意味は、動態的過程として常に変化する。

4.2 英語表現の意味

4.2.1 英語表現の意味は、第一に、理解者の自己生成として経験されるべきもの

4.2.2 英語表現の意味理解の検討は多元的であるべき

4.3 英語教育の意味

4.3.1 自己生成の多様化と精妙化による適応能力の向上

4.3.2  意味の可能性と動態性の否定による適応能力の低下

英語教育界における意味の矮小化に対して、私たちは抵抗しなければならない。




引用文献

 Damasio, A. (2010) Self comes to mind. Vintage
Lakoff, G. and Johnson, M. (1987) Women, fire and dangerous things. University of Chicago Press.
Luhmann, N. (1990) Complexity and Meaning. In Essays on self-reference. Columbia University Press. (pp.80-85)
Tononi, G. (2008) Consciousness as Integrated Information: a Provisional Manifesto. Biol. Bull. Vol. 215 No. 3 216-242
Tononi, G. (2012) Phi: a voyage from the brain to the soul. Panthenon.
Tononi, G. and Edelman, G. (1998) Consciousness and complexity. Science. Vol. 282. pp.1846-1851.
Tononi, G. an-d Koch, C. (2015). Consciousness: here, there and everywhere? Philosophical Transactions of the Royal Society B. Vol. 370, Issue 1668. DOI: 10.1098/rstb.2014.016
アレント, H. 著、森一郎訳 (2015) 『活動的生』みすず書房
日本英文学会(関東支部)編 (2017) 『教室の英文学』研究社
柳瀬陽介・組田幸一郎・奥住桂 (2014) 『英語教師は楽しい』ひつじ書房
柳瀬陽介・小泉清裕 (2015) 『小学校からの英語教育をどうするか』岩波書店
柳瀬陽介(2016) 「テストがさらに権力化し教育を歪めるかもしれない」  ELPA Vision. No.2. p.9.
柳瀬陽介(2017a) 「英語教育実践支援研究に客観性と再現性を求めることについて」『中国地区英語教育学会研究紀要』No.47. pp.83-93.
柳瀬陽介(2017b) 「意味、複合性、そして応用言語学」 『明海大学大学院応用言語学研究科紀要 応用言語学研究』 No.19. pp.7-17
ルーマン, N. (1984). 「社会学の基礎概念としての意味」. ハーバマス, J.・ルーマン, N. 著、佐藤嘉一・山口節郎・藤澤賢一郎訳『批判理論と社会システム理論』. pp.29-124.

追記
柳瀬学会口頭発表音声
https://app.box.com/s/qvcf4t042qg8vg7j8zohsoafhzqondhx



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