2017年9月14日木曜日

Generalization from Qualitative Inquiry by M. Eisenhart (質的研究からの一般化について)




以下は、ある読書会に参加した際に作成したお勉強ノートです。質的研究でも「一般化」はできるのだが、その際の「一般化」は、ランダムサンプリングで得られたデータで統計的に推測された「一般化」とは異なるというのが、その趣旨の一つです。

Chapter 4 (pp.51-66)
Generalization from Qualitative Inquiry
Margaret Eisenhart

From
Generalizing from Educational Research: Beyond Qualitative and Quantitative Polarization
Edited by Kadriye Erickan and Wolf-Michael Roth
Routledge



■ 「質的研究は一般化できない」という通説
要約:「質的研究は一般化できない (not generalizable)」というのが現在は主流になっているが(後に見るように (p.64)、たとえば1990年にJanet Schofieldは本章の議論を先取りするような提言をしていた)、筆者はこの通説が質的研究の規範 (norm) であってはならないと本章で主張する。(p.51)

■ 筆者が取る一般化の定義
翻訳:Ercikan and Roth (2006) は「一般化は数学的処理の特性 (a feature of mathematization)ではなく、研究された文脈と参加者を超えて推論する際の傾向性を記述する用語 (a descriptor for the tendency of inferences) である」と主張したが、私もこれと同じ見解を取り、質的研究からの一般化は可能であるしまた重要でもあると主張する。(p.52).


■ 質的研究で一般化はできないと考える人は、確率論的一般化のことばかりを考えている。
翻訳:質的研究は一般化できないと言う人の多くは、一般化の概念を確率論的用語で定義しているようである。つまり、統計的確率に基いて、標本から母集団についての一般的な主張を導き出す手続きという定義である。 (p.52)


■ 法則的一般化を考えても、質的研究では一般化は不可能と考える。
要約:Abraham Kaplan (1964) に倣い、一般化は「真に普遍的で、時間にも空間にも制約されないもの。適切な条件が充たされるならば、常にどこでも事実となることを定式化するもの」"must be truly universal, unrestricted as to time and space. It must formulate what is always and everywhere the case, provided only that the appropriate conditions are satisfied" (p. 91) と考える法則的一般化 (nomological generalization) という考え方がある (p.56)
この考えを取るとしても、質的研究での一般化は不可能となる。


■ 漸進的一般化
要約:漸進的一般化 (approaching generalization) では、確率論に基いて標本から母集団についての推論を導くのではなく、観察あるいは報告された類似性 (observed or reported similarities) に基いて、ある研究対象から他の研究対象への推論を導く。 この一般化の根拠は類似性である。研究を読む者は、この類似性について判断し、その判断に応じて一般化が適切かどうかを判断する。 (p.53)


 転用可能性
翻訳:Lincoln and Gubaは、法則的一般化 (nomological generalization) の考え方を退け、Lee Cronbach (1975) の考え方、すなわち、社会科学研究の結果は、それ以降の調査のための「作業仮説」 ("working hypotheses") に過ぎないという考え方に依拠して、「転用可能性」 ("transferability") という考え方を提唱した。これは二つの文脈の類似性 (similarity) の程度を示すものであり、一般化に代わる考え方である。質的研究者を含む社会科学者はこの考え方を追求することができるし、またそうするべきであると彼らは考えた。もし二つの文脈が十分に類似しているならば、ある文脈での知見や結果を別の文脈に転用する転用可能性は可能であると彼らは論じた。類似性の程度が転用可能性の見込み (likelihood) ということになる。 (p.56)


■ 利用者用一般化可能性
要約:Merriam (1998, p. 211) は、「利用者用一般化可能性」 (user generalizability) を提唱したが、これはある研究の結論が、その結論を自分が関わりその詳細を熟知している文脈においても適用しようと考える利用者が見い出すものである。(p.57)


■ 事例に基づく一般化(グラウンデッド・セオリー)

翻訳:The Discovery of Grounded Theoryという著作で、Barney GlaserAnselm Strauss (1967) は、質的研究が引き出せる別の種類の一般化を提唱した。「事例に基づく一般化」(もしくは理論) ("grounded generalizations" (or theories)) とは、絶えず比較する方法 (constant comparative method) を踏襲するものであり、次のようにして形成される。研究者は、特定の状況 (local situation) から別の特定の状況へと研究対象を移し、さまざまな時空で観察される興味ある現象を直に追いかけてゆく。研究者は、その現象が「作用している」ものすべて (everything the phenomena "touches") を調べ、新しい状況でその現象に出会う度にそれを以前の現象の観点から記述し解釈する。こうして研究者は、これまでの情報すべてに適うとりあえずの仮説を形成し、さらに新しい状況では何が明らかになるかを予想する。この過程において、研究者は意図的に否定的な事例、すなわち今、出現しつつある仮説の変更や拒否を迫るような状況を意識的に探し出す。現象の新たな例、特に仮説が間違いであることを示すかもしれないような例ですらも、これまでに形成してきた仮説で説明できない情報を生み出さないようになるまで研究者はこの過程を続ける。こうして得られた最終仮説が、事例に基づく一般化もしくは理論の命題となる。 (p.57) 
※「グラウンデッド・セオリー」という用語が日本では定着していることは知っているが、私は「カタカナ語の乱用は適切な理解を阻害する可能性が高い」と信じているので、ここではあえて「事例に基づく理論」「事例に基づく一般化」と訳した。ただ、「○○に基づく」を「事例」とするか「データ」とするかについては若干迷った。


■ 理論的一般化がもっとも重要
要約:筆者は理論的もしくは分析的一般化 (theoretical or analytical generalization) がもっとも質的研究や教育研究にとって重要だと考えている。(p.59)


■ 理論的一般化
要約:質的研究の結論は、結論をより大きな集団に拡張的に一般化されるというよりは、ある特定の理論的論争の文脈の中で一般化される (generalizable in the context of a particular theoretical debate)(p.59)


■ 理論的一般化は、新しい事例でその理論を洗練させる
翻訳:理論的一般化 (theoretical generalization) を追求するために、新しい集団や場所を選んで研究を行われるが、その選択はその新しい事例が何か新しく異なることを明らかにしてくれる見込みに応じて行われる。この新しい現象が理論化されたら、さらなる差異や変異をもたらす事例が追加されて一般化可能性 (generalizability) が試される。一般化の基盤になる事例の選択はランダムなやり方でも母集団をうまく代表するようにサンプルを取るやり方でもない。選択は、選ばれた事例が理論を確固たるものにする、洗練させる、もしくは反駁する見込みの度合いによってなされる。 (p.60).


■ 理論的一般化と事例に基づく一般化の違い
要約:理論的一般化と事例に基づく一般化の過程は確かに似ているが、両者は求めていることにおいて異なる。理論的一般化が求めていることは既存の理論をより洗練させ鋭敏なものにすることであり、事例に基づく一般化がもとめているものは新しい理論や説明である。(p.60)






0 件のコメント: