2018年4月10日火曜日

動機づけに関するDan Pinkの動画



この記事は、「敎育に関するKen Robinsonの動画」と同じく、学部生向けのある授業の補助資料として作成したものです。

「成績がよかったら褒めて、悪かったら辱める。あるいは成績がよかったら経済的利益が得られるし、悪ければ経済的に苦しむと言い聞かせる。そして成績の測定のために標準テストをどんどん使う」 -- これは現在の日本の教育の作動システム (Operating System: OS) であるように思えます。

しかし、このやり方は、本当に学習者の能力を伸ばしているのでしょうか。この考え方で日本は創造性を高めているのでしょうか。

このやり方で勝ち残って敎育に関する権力者となったエリートは、「然り」と言うでしょう。というより、現実に進行している敎育「改革」や敎育「再生」のほとんどは、このシステムの徹底です。

教師もそのシステムのさらなる貫徹のために努力するべきなのでしょうか。学習者だった時代を思い出してください。自分はこのシステムで幸せだったでしょうか(他人を蹴落とすことだけに幸せを感じるようなエリートは、ここで「もちろん」と言うのでやっかいなのですがw)。周りの仲間はどうだったでしょうか。このシステムに投げ込まれている子どもの表情はどうでしょうか・・・。

以下の動画は、アメリカのベストセラー作家によるTED講演ですが、内容はこれまでの心理学研究に基づいたものです。

この動画から、学校教育のあり方、教師の行動様式について根源的に考え直してみましょう。

以下に講演の書き起しの一部を転載しています。書き起しは “Ideas worth spreading” としてWeb上に無料公開されているものなので、出典情報を明記した上でその一部を転載することには問題がないと考えました

書き起しの前にある数字は講演でその発言が現れる時間です。書き起しの下にある「※」印以降の文章は私の蛇足です。

Dan Pink TEDGlobal 2009
The puzzle of motivation



https://www.ted.com/talks/dan_pink_on_motivation/transcript

01:07 今日の講演は「お話」ではない。証拠に基づいた「訴訟事実」である。
I don't want to tell you a story. I want to make a case.
※ 講演者は、自分の履歴で笑いをとった後に、これから述べることは心理学研究による証拠に基づいた事実だということを強調している。
以下、ロウソク問題をトピックにして研究結果が紹介される。


03:58 「アメとムチ」は創造性を阻害する。
You've got an incentive designed to sharpen thinking and accelerate creativity, and it does just the opposite. It dulls thinking and blocks creativity.
※ これは衝撃的な事実。言ってみるなら、「欲につられて視野狭窄状態に陥る」といったところでしょうか。そうなると、「アメとムチ」で中高六年間を(最近は小学校の間の年月も)子どもを誘導している敎育関係者は、子どもの才能を伸ばしているのでしょうか?
  こう尋ねますと「いや、大学に入ってから創造性を高めればいいんですよ」とよく反論されますが、私の個人的印象では、大学ではすばらしいものを創り出す創造性どころか、現状とは異なる事態を想像する想像力すら奪われているような大学生が少なくないように思います。創造性の高い大学生の多くは、学校教育の反抗者や落ちこぼれであったようにも思えます。

04:22 条件づけの賞罰が有効なのは一部の限られた課題のみ
These contingent motivators -- if you do this, then you get that -- work in some circumstances. But for a lot of tasks, they actually either don't work or, often, they do harm. This is one of the most robust findings in social science, and also one of the most ignored.
※ たしかに多くの研究がこのことを裏づけているのに、この研究結果はなぜ世間に普及しないのだろうか。きわめて個人的な思いつきに過ぎないが、私たちには他人を支配したいという権力欲が根強くあり、教師も学習者の運命を左右することに秘かに快感を覚えているのだろうか。
  小説『1984』では、「迫害の目的は迫害、拷問の目的は拷問、権力の目的は権力なのだ」という台詞すらある。もし私のこの権力説が荒唐無稽だというなら、他にどんな理由が考えられるだろう。私は純粋に知りたい。
ジョージ・オーウェル『1984年』での言語(ニュースピーク)に関する部分の解説
http://yanaseyosuke.blogspot.jp/2017/05/1984.html

05:09 機械的な20世紀的課題と創造的な21世紀的課題で区別するべき。
That's actually fine for many kinds of 20th century tasks. But for 21st century tasks, that mechanistic, reward-and-punishment approach doesn't work, often doesn't work, and often does harm.
※ しかしこの区別は敎育関係者に共有されているのだろうか?教師の多くは自主研修の時間を持てずに、十年一日のように受験問題集や資格試験対策問題集を読んでいるだけで、情報革命が常態化した21世紀の現状を理解できていないのではないだろうか?

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ケヴィン・ケリー著、服部桂訳 (2016) 『<インターネット>の次に来るもの 未来を決める12の法則』 NHK出版
http://yanaseyosuke.blogspot.jp/2018/01/2016-12-nhk.html
 伊藤穰一、ジェフ・ハウ著、山形浩生訳 (2017) 『9プリンシプルズ:加速する未来で勝ち残るために』早川書房
http://yanaseyosuke.blogspot.jp/2018/01/2017-9.html

06:15 条件つきの報酬が有効なのは、決まりきった(退屈な)仕事だけ
If-then rewards work really well for those sorts of tasks, where there is a simple set of rules and a clear destination to go to.
※ こうなるとパターン化された退屈な受験問題だけを教えるのなら、「アメとムチ」は有効なものだとも思えてくる。教育方法だけでなく、教育内容、そして教育内容に多大な影響を与える教育評価も含めて敎育を考えないと敎育の改善は図れない。

08:35 これは事実である。
This is a fact -- or, as we say in my hometown of Washington, D.C., a true fact.
※ "A true fact"とは畳語表現によるナンセンスで観衆の笑いを誘っている。もしこの表現が必要なのだとしたら、その他の種類の事実、例えば "untrue fact"も成立することになってしまうからだ。
 とはいえ、 "alternative facts"という表現はトランプ大統領の側近に実際に使われたことに注意。幸い米国ではこの表現はすぐに馬鹿げたものとして批判され笑いのタネにされたが、気をつけていないとことばは権力者の勝手な言い回しによってすぐに無意味なものにされてしまう。
 『1984』での絶対権力者は、語の意味や語そのものを剥奪する事業を体系的に遂行している。体系的ではないにせよ、ことばの意味を無効にしてしまうようなことばづかいを連発する政治家は存在するので注意したい。
WIKIPEDIA: Alternative facts
https://en.wikipedia.org/wiki/Alternative_facts

11:02  LSEでのメタ分析
Last month, just last month, economists at LSE looked at 51 studies of pay-for-performance plans, inside of companies. Here's what they said: "We find that financial incentives can result in a negative impact on overall performance."
※ このメタ分析論文の文献情報はわかりませんでした。ごめんなさい。

11:20 経済危機の今であっても、あまりにも多くの組織がこの古い「アメとムチ」の考え方に凝り固まっている。
And what worries me, as we stand here in the rubble of the economic collapse, is that too many organizations are making their decisions, their policies about talent and people, based on assumptions that are outdated, unexamined, and rooted more in folklore than in science. And if we really want to get out of this economic mess, if we really want high performance on those definitional tasks of the 21st century, the solution is not to do more of the wrong things, to entice people with a sweeter carrot, or threaten them with a sharper stick. We need a whole new approach.
※ 日本の学校は、「アメとムチ」で学習者の「思考力・判断力・表現力」を育て「主体的で対話的で深い学び」を促進しようとしていないだろうか。必要なのは、これまでの教育「改革」のさらなる進行や、敎育「再生」の徹底ではなく、そのような古い考えに凝り固まっている権力者―政治家、文部官僚、研究者、教師―の考え方を変えることではないのか。

12:06 自律・熟達・目的
And to my mind, that new operating system for our businesses revolves around three elements: autonomy, mastery and purpose.
Autonomy: the urge to direct our own lives.
Mastery: the desire to get better and better at something that matters.
Purpose: the yearning to do what we do in the service of something larger than ourselves.
※ この三つの要素は、ピンク氏がおそらくはデシとライアンの「自己決定理論」に基づいて言い直した表現だと思われる。この三要素についてはピンク氏の著書『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』を参照のこと(このブログの次の記事でこの本の簡単なまとめだけは提示します)。


12:47 自律性:自分のことは自分で決める。
I want to talk today only about autonomy. ... Traditional notions of management are great if you want compliance. But if you want engagement, self-direction works better.
※ Complianceとengagementという対比に注意。前者は、日本でもそのまま「コンプライアンス」として使われるようになったが、予め定められた事柄に従順に従うことを含意することが多い。後者は、現代アメリカ英語の一種の流行語で、たいていはよい意味で使われると私は観察しています。訳語としては「熱中」ぐらいが適切かと私は考えていますが、適訳についてはしばらく考え続けたいと思っています。


14:26 企業の技術者に一日の自由研究日を与え、その結果を共有させる。
FedEx Days

14:46  グーグルの20%ルール
And at Google, as many of you know, about half of the new products in a typical year are birthed during that 20% time: things like Gmail, Orkut, Google News.
※ 学習者(小学生から大学生まで)の学習時間の20%が、学習者一人ひとりが課題を決めて、学びならばなんでもやっていいとなったらどうなるだろうか。現状でこれをやれば、多くの日本の子どもは「自分で何をやればよいかわからない」と途方にくれてしまうかもしれないと私は考えているが、現状はどうだろうか。そうだとしたら「だから、グーグルの20%ルールなんて無理です」とこれまでのやり方を墨守することが教師のやるべきことだろうか。教師は子どもの感性を取り戻す、あるいはこれ以上破壊しないことに全力を傾注しなければならないのではないだろうか。

15:14 結果達成に基づく労働環境
the Results Only Work Environment (the ROWE)  ... They just have to get their work done. How they do it, when they do it, where they do it, is totally up to them.
※ ただしこれを行う前提は、自分の仕事がどこからどこまでという線引 (job description 職務内容規定書) がしっかりしていること。それがはっきりしておらず、「善意」に基づいて子どもについてのことは、あれもこれもと何でも教師が抱え込むことが奨励されているし、教師自身もついついそうしてしまいがちな日本でこれをやれば、残業が今以上に多くなるかもしれない。
   ちなみに私はこれまで職務内容規定書に関しては、「なんだか個人主義的過ぎて嫌だなぁ」ぐらいに思っていたが、広島大学で共に働く外国人の同僚がjob description的な言動を示すのを見るにつけ、「このような線引が明確にあるからこそ、組織全体のシステムづくりを考えられるようになるのでは」と少しずつ考え方を変えている。

16:43 エンカルタとウィキペディアの競争で前者が負けるとは誰も思っていなかった。
10 years ago you could not have found a single sober economist anywhere on planet Earth who would have predicted the Wikipedia model.
※ ウィキペディア:エンカルタ


17:21 要約 (1) 20世紀的なアメとムチのやり方の有効性は限定的。(2) 条件つきの報酬はしばしば創造性を破壊する。(3) 外からは見えない内在的な動因こそが成功の鍵。
Let me wrap up. There is a mismatch between what science knows and what business does. Here is what science knows.
One: Those 20th century rewards, those motivators we think are a natural part of business, do work, but only in a surprisingly narrow band of circumstances.
Two: Those if-then rewards often destroy creativity.
Three: The secret to high performance isn't rewards and punishments, but that unseen intrinsic drive -- the drive to do things for their own sake.
※ 教育学部にいて「内在的動機づけ」ということばを知らない人は少ないだろうが、もう一度、この概念を教科書の上だけの知識だけではなく、私たちの生活の中でも成立している場面かどうかを検討しよう。
   外在的動機づけ(アメとムチ)が効果的だった場合、逆効果だった場合、内在的動機づけがうまくいった場合、うまくゆかなかった場合について具体的に思い出そう。動機づけについて教条的になることなく、私たち人間の性質についてよく観察しそれを分析する習慣を徹底させよう。










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